世界の株式市場を揺るがす米中貿易摩擦(新冷戦)。

新聞やテレビニュースを賑わせていますが、以下のように感じている方も多いのではないでしょうか?

「何だかおおごとみたいだけど何のことか良く分からない…」
「ずいぶん長く続いているけど、そもそもどんな経緯だったか良く覚えていない」
「結局、相場にどんな影響があるの?」

この記事では、2018年7月から追加関税措置が発動し本格化している米中貿易摩擦(新冷戦)について、その経緯や市場への影響を分かりやすくまとめ、お伝えします。

米国は2021年にバイデン政権へ移行しますが、今後も米中対立の構造は変わらない、「新冷戦」と呼ばれる米中貿易摩擦はむしろ激化するリスクも孕んでいます。

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貿易摩擦の経済や市場への影響を考えると貿易戦争の動向は目が離せず、引き続き注視が必要です。以下で分かり易く解説していきます

米中貿易摩擦(新冷戦)の動向まとめ

  • 米国は段階的に関税を引き上げしており、第4弾関税引き上げ(3,000億ドル分)まで視野に入れていた
  • 2019年12月14日、米中間で第一段階の合意に達し、引き上げしていた関税の一部引き下げを発表
  • しかしながら、両国の思惑で真に対立が緩和に向かうかどうかは不透明
  • 貿易摩擦問題の長期化は日本経済を含め世界経済の成長に停滞をもたらし、株価に悪影響がある可能性

まとめ①:米中貿易摩擦(新冷戦)とは?分かりやすく解説

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米中貿易摩擦(新冷戦)は、2017年1月にアメリカ大統領に就任したトランプ氏が中国に対し、貿易不均衡是正のために仕掛けた外交戦略の一つです。

アメリカと中国の貿易問題であり、両国間で是正のための協議が進んでいたものの、遂に2018年から両国間で追加関税をかけ始めたことが原因で泥沼化しました。

つまり、経済が急拡大を続ける中国と19世紀から世界に君臨する王者である米国の覇権争いと言えます。

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要するにトランプ大統領がアメリカの貿易による利益を増やそうとして中国にケンカをふっかけている、ということになります

まとめ②:米中貿易摩擦(新冷戦)の原因

貿易摩擦におけるアメリカ側の主張は、中国経済に対するものと政治体制に対するものの大きく2つに分かれます。

中国経済への批判

  • 米中間の貿易不均衡(米国が大幅な貿易赤字)
  • 「中国製造2025」における産業政策
  • (外資企業の技術移転強要・輸出補助金提供 等)
  • 中国の知的財産権の問題
  • 中国による為替介入・為替操作

中国政治への批判

  • サイバー攻撃やスパイ活動
  • 中国による帝国主義的な外交活動
  • 中国国内におけるキリスト教・イスラム教などへの弾圧政策
  • 人権を侵害する管理・監視政策
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分かりやすく言うと、経済・政治の面で中国をけん制したいのです

こうした建前を元に、アメリカから中国へ仕掛けるかたちで米中貿易摩擦(新冷戦)の火ぶたは切って落とされます

まとめ③:米中貿易摩擦(新冷戦)に関する経緯

【貿易摩擦”開戦”後の主な出来事まとめ】

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戦争前夜:2016-2017年

そもそもの火種は、トランプ大統領が勝利を収める2016年の選挙期間中から存在していました。

この時期からトランプ大統領は、アメリカと中国との間での貿易摩擦を大きな問題として言及しています。

2017年、トランプ大統領の当選後、習近平国家主席との米中首脳会談が行われ貿易不均衡を是正するための「米中包括経済対話メカニズム」が立ち上げされるも進展を見ないままにとん挫しました。

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「アメリカ第一!」を実現しようとしたわけです。

追加関税措置発動直前:2018年6月まで

2018年に入り、米中貿易摩擦(新冷戦)の攻防は加速します。

1月にアメリカが「太陽光発電パネル」や「洗濯機」に追加関税の発動を発表したことを皮切りに、貿易戦争の様相を呈していきます。

3月にはアメリカが追加で「鉄鋼」「アルミニウム製品」に追加関税を実施する旨を発表。

これに対し、中国はアメリカから輸入する128品目の製品へ追加関税を課す報復措置を公表します。

その後、何度か米中での貿易摩擦解消のための閣僚級会議が開催されます。

しかし6月、アメリカは同年7月から中国からの輸入製品1,102品目に対して翌月から500億ドル(およそ5兆円)規模の追加関税を課すと発表します。

中国も対抗措置として、659品目に対して追加関税措置を実施すると公表します。

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「やられたらやり返す」のいたちごっこです

貿易摩擦の開戦(追加関税第1弾~第3弾):2018年7月~2018年12月

2018年7月、アメリカはついに818品目・340億ドルの輸入品に対して追加関税措置を発動し、中国も追随し同規模の報復関税を課します。

8月には、米中両国が追加関税第2弾をそれぞれ160億ドルの規模で発動。

続いて9月には第3弾が発動。アメリカが5745品目・2000億ドル規模の輸入品に、中国が5207品目・600億ドル規模の輸入品に対して追加関税を課します。

更に11月にはトランプ大統領から全品目・2670億ドル規模を対象にした追加関税第4弾の実行が示唆されます。

米中首脳をはじめ政府間で会合が継続されますが2018年中には完全合意には至らなかったものの、12月には経済制裁や報復関税を「休戦」することで合意します。

収束に向けた協議:2019年1月~2019年4月

2019年に入っても首脳級・閣僚級の協議が継続。

2月末には、トランプ大統領から元々3月から発動と宣言していたアメリカによる報復関税第4弾を延期すると発表されます。

4月末にかけては、 制裁関税の撤廃時期や合意内容実行のフレームづくりで詰めの協議を実施する、との見通しが報道され貿易戦争の緩和期待が高まりました。

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それにあわせて全世界の株式市場でも楽観ムードがひろがり株価が上昇しましたね

貿易摩擦の加速(追加関税第4弾の発動懸念):2019年5月~

期待の高まりとは裏腹に5月5日、トランプ大統領はTwitterで、中国からの輸入品2,000億ドル分に課している追加関税率を10%から25%へ10日に引き上げる方針を示唆しました。

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※出典:トランプ大統領Twitterアカウントより抜粋

トランプ大統領は、協議の進展が「遅すぎる」と不満を漏らし、関税引き上げの脅しをかけました。

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ゴールデンウィーク最終日にこのニュースを見てびっくりしました

5月10日には、25%の関税が実効化。

更に追い討ちをかけるように残りの輸入品に対しての関税を引き上げる手続きに入ったとしていました。

これに対し、中国側は抗戦の姿勢を示すのです。

報復措置として、600億ドル規模の米国輸入品に対し、6月1日付で追加関税を最大10→25%へ引き上げました。

中国財政省が発表した声明は以下の通りです。

対象は米国輸入する5140品目、追加関税の調整は、米国の一国主義と保護主義への対応。米国が二国間の貿易および経済協議の正しい軌道に戻り、中国に歩み寄ることを望む

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/60025.php

米国による追加関税強化、中国による報復措置のスパイラルが続いており、貿易摩擦はエスカレートの一途をたどっていました。

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要するに米国が関税を少しずつ上げていくのに対し、中国が仕返しで関税を上げていくということが繰り返し起きている、という状況が続きました

一方で、2019年6月末に大阪で開催されたG20首脳サミットにおいて、米中の首脳会談が行われ、米中貿易摩擦(新冷戦)の協議を再開する旨が合意されました

またトランプ大統領から中国の通信機器大手ファーウェイに対する制裁を緩和する方針も公表されます。

【参考】米中、貿易協議を再開へ 首脳会談で合意

貿易摩擦の協議再開:2019年7月〜

2019年7月の最終週から、北京にて対面での閣僚級の協議が再開しました。当時も協議が再開される旨が大きく報道されています。

米政治専門メディアのポリティコは22日、米中両政府が来週、北京で閣僚級貿易協議を再開する方向で検討していると報じた。

対面交渉が再開されれば、6月末に貿易戦争の「一時休戦」を決めた米中首脳会談後では初めてとなる。中国の産業構造改革や貿易不均衡の是正などをめぐり、交渉の進展が焦点となる。

出典:日経新聞記事

対面での協議で進展が期待されていたものの、米中による協議が難航することは想像に難くなく、貿易摩擦問題は更に長期化する懸念が高まります。

そうした中で、7月末から協議が継続する中、トランプ大統領は追加関税第4弾として、中国製品3,000億ドルに対する10%の関税引き上げを9月から発動させる旨、発表しました。

この発表を受けて、世界の株式市場は総崩れします。

貿易摩擦の第一段階合意(2019年12月)

その後、閣僚級の会合が継続されていた中、2019年12月14日に米中の貿易交渉は第1段階の合意に達し、アメリカ政府は中国の輸入品に上乗せしている関税の一部を引き下げると発表しました。

米中の貿易交渉は、中国による農産品の購入や知的財産権の保護などの分野で第1段階の合意に達し、トランプ政権は中国に対する関税措置を発動して以来初めて、関税の一部を引き下げると発表しました。

背景として、2020年の大統領選に向けたトランプ大統領の思惑があります。中国との合意に至ったという事実を成果としてアピールし、選挙戦での支持に繋げたいという狙いがあります。

いずれにせよ、この合意を受け、米中貿易摩擦(新冷戦)への懸念が和らぎ、株式を始めとする世界の金融市場は、一旦の落ち着きを見せました。

その後の動き(コロナ感染拡大、米国大統領選挙):2020年以降も米中貿易摩擦(新冷戦)解消は実現せず

明けて2020年1月、トランプ大統領と劉鶴副首相は米中経済貿易協定に署名し、一旦の落着を見ました。

2月には、2019年12月に協議された第1段階の合意が発効され、米中は相互に、上乗せしていた輸入品への関税を初めて引き下げました。

その後、コロナウイルスの感染拡大が発生した際には、コロナに係る物品(防護服、マスク、人工呼吸器など)については、米国通商部が関税を撤廃しています。

2020年には2019年までに見られたような関税の引き上げ合戦は発生しませんでしたが、中国企業に対する引き締めが強まっていきました。

2020年8月、トランプ前大統領は中国IT企業のバイトダンスやテンセントとの取引を禁じる大統領令に署名した。また、14日にはバイトダンスに対してTikTokの米国事業を90日以内に売却するよう正式に命じています。

ハイテク分野では、安全保障上の観点すなわち情報漏洩の観点で、通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)などの中国企業との取引禁止に向け、制裁を強化する方針を打ち出しました。

いつしか、米中貿易摩擦は「新冷戦」と呼ばれるようになり、両国の溝は深まるばかりです。

2020年11月には米国の大統領選挙によって新たに誕生したバイデン政権においても、中国に対する強硬路線は大きな変更がない見込みです。

米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領は、米中通商摩擦に同盟国と団結して対抗する。

多国間主義を否定するトランプ政権の外交からの転換になるが、制裁関税は完全には排除しておらず、貿易だけでなく環境や人権問題も重視。

「新冷戦」とも呼ばれる両国の対立解消は望めそうもなく、日本を含む世界経済の足かせとなるのは必至だ

出典:時事通信

まとめ④:米中貿易摩擦(新冷戦)の影響

世界経済への影響

貿易摩擦による追加関税合戦で、世界経済への悪影響が強く懸念されています。

OECDの2018年末時点の試算によると、もし米中が第4弾の追加関税措置を発動した場合、2021年にかけてアメリカは▲1.1%、中国は▲1.3%、世界は▲0.8%GDPが下落する、と予測していました。

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現在ではコロナウイルスの影響が勝っているものの、世界経済への悪影響が大きいという点は間違いありません

米国経済への影響

内閣府から、貿易摩擦の影響によって米国の消費者にとって物価高による負担が重くなるとの分析が発表されています。消費の重しとなり、経済成長の停滞を招く可能性があります。

内閣府は26日公表した報告書「世界経済の潮流」で、米中貿易摩擦の影響を検証した。米国による追加関税品目のうち、中国からの輸入製品が占める割合(対中依存度)は発動済みの第3弾までで2割、検討中の第4弾で4割に達する。中国以外の国や地域からの輸入で代替する難しさが増すうえ、携帯電話など生活に身近な品目も増え、米国の消費者の負担が重くなると分析した。

出典:日経新聞記事

実態として、関税が発動した時期に近い2019年4-6月の米国GDP成長率は2.1%となり、1-3月の3.1%から減速しています。輸出の減少が大きな要因です。

参考:米成長率、2.1%に減速 4~6月、貿易戦争で輸出減

中国経済への影響

長引く米中貿易摩擦(新冷戦)の影響を受け、2019年4-6月期のGDP成長率が6.2%と1992年の観測史上で最低水準となりました。直前の1-3月期から0.2%縮小しています。

工業生産は自動車や半導体の生産が不調に終わりましたが、米国が追加関税を課していることから輸出関連製品の生産量が落ちていることが原因です。実際に、輸出は前年同期対比で▲1.3%減少しています。

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こちらも現在はコロナウイルスの影響が勝ってはいますが、米中貿易摩擦(新冷戦)が明らかに中国経済に影を落としていることが分かります

日本経済への影響

日本経済、特に日本企業への影響は大きく3点あります。

1点目は、中国国内経済の景況悪化です。中国の対米輸出が関税引き上げによって減少することで、中国企業の業績悪化⇒中国国内の景気悪化が起こります。

これにより輸出関連企業を始めとして日本企業の中国における業績が停滞する可能性が高まります

2点目は日本企業の中国からの輸出減少による業績悪化です。

中国に生産拠点を持つ日本企業は多く存在します。中国から米国への輸出に関税がかかると、日本企業が中国で生産した製品の対米輸出が減少します。

特に影響が大きいのは、日本を代表する産業である自動車業界です。トヨタを始めとする自動車業界の業績が悪化すれば、国内経済への悪影響も予想されます。

3点目は、世界的な企業投資の減退です。世界で最大級の市場を誇る中国の景気が悪化すれば、先行き不透明感から世界中の企業が設備投資等の投資を控える可能性があります。

そうすると、産業機器関連の日本企業の輸出が減少する可能性が高まります

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はっきり言って、だれも得しないです。トランプ大統領が自分の公約を守りたいだけの自己満足です。バイデン大統領は「自滅的な関税合戦」と批判していますがその通りですね

株式相場への影響

世界経済の成長に停滞をもたらす米中貿易戦争(新冷戦)の影響は、株式相場にネガティブなインパクトを及ぼしています。

特に、直接影響を受けるアメリカのダウ平均株価が大きく動いたのは、2018年2月と2018年12月です。日経平均も連動するように下落しました

米中貿易摩擦(新冷戦)によりダウ平均株価が大幅下落

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出典:SBI証券

貿易戦争への懸念が顕在化した2018年2月~3月に、上り調子だったダウ平均株価が変調します。

特に、2月2日の始値:26,129ドル⇒2月5日の終値:23,989ドルとたった2営業日で▲8.2%も下落しました。

また2018年12月には、12月4日の始値:25,586ドル⇒12月31日の終値23,313ドルへ▲8.9%も下落しています。

日経平均株価も連動して下落

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出典:SBI証券

日経平均株価もダウ平均株価と連動して下落しています。

まとめ➄:2021年の動向予測。米中貿易摩擦(新冷戦)の影響は弱まっている

2019年12月に米中間で第一段階の合意に達しており株式市場は好感、米国ダウや日経平均株価も年初来高値を更新しました。

2020年はコロナウイルスの影響が勝っていたこともあり大きな動きは無かったものの、「新冷戦」として米中の対立は継続する見通しです。

先導の役割を担ったトランプ大統領は「退場」するものの、バイデン新政権下においても基本的には対中強硬路線を継承する可能性が高いためです。

しかしながら株式市場の関心は、コロナ状況・ワクチン実用化・経済回復等に移っており、米中貿易摩擦(新冷戦)というテーマ自体の影響は明らかに弱まっています。

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ただし、米国当局の取引禁止方針打ち出しなどによる特定の中国株(IT・通信株等)への影響は甚大ですし、コロナが収束に向かう中で、米中で大きな動きがあるかも知れず、引き続き注視が必要です

また中国を重要市場と位置付けている日本企業にとっては、中国の実体経済に影響を与える米中貿易摩擦(新冷戦)は業績を大きく左右するテーマです。

当サイトでは、引き続き、米中貿易摩擦(新冷戦)の動向をモニタリングしていきます。