
(株式投資アナリティクス編集部)
置いていかれる前に買わなければ、せっかくの儲けるチャンスを棒に振ってしまう…日経平均株価がバブル後最高値を更新し続ける裏で、それを追い風に、毎日のように上場来高値を更新しているレーザーテック株を見て、こう考えている人もいるのではないでしょうか。
熟練のトレーダーでさえ先読みができないのが、今の相場です。こんな時だからこそ、まずはしっかり企業と、その企業を取り巻く情勢を知る必要があります。
企業・ビジネスの特徴
レーザーテックってどんな会社?
レーザーテックは横浜市港区に本社を構える、半導体関連装置の開発や製造、販売をメインに行う会社です。その他にも、レーザー顕微鏡、環境関連装置などの分野にも一定のシェアを持っています。最大の特徴は同社の主力製品である「マスク欠陥検査装置」のシェアが驚異のほぼ100%であるということです。同社の半導体関連装置による売上高は、全体の約75%にのぼり、こうした装置で高シェアを維持し続けることが業績と株価の安定的な成長を実現しているのでしょう。
また、同社は従業員が連結375人、平均年収が約1100万円ということから、少数精鋭で無駄なく事業が運営されていることがうかがい知れます。
検査装置はどうして重要?
現代の人々の生活には、電気製品や通信機器が必要不可欠と言えます。そうした製品の全てに、半導体チップが内蔵されており、今後ますますその需要は高まることが予想されています。ここからは少し専門的な話になります。半導体チップは、シリコンウェハというものの表面に回路を焼き付けることで作られます。この回路の原板が「半導体用マスク」と呼ばれています。そしてマスクを描くための板を「マスクブランクス」といい、これらの検査は、回路を正確に描くためには必須の工程なのです。つまり、この装置が無いと半導体をつくることができないと言っても過言ではありません。
ちなみに製品の年間出荷台数は、1つの装置あたり数台、多くても20台ほどですが、単価は極めて高く設定されています。検査装置の価格は1台あたり数億円から十数億円で、中には40億円以上の装置もあるそうです。
なぜシェアが揺るがない?
先述しましたが、同社の半導体用マスク検査装置の世界シェアは、100%となっています。すごいのは2000年初め頃からそのシェアを維持し、ライバルがいない状態が続いているという点です。その理由は、レーザーテックの技術力の高さが業界で群を抜いているからと言えるでしょう。同社は、半導体の微細化に合わせて、さらに細かい欠陥を検査によって発見できるよう検査装置を何度もバージョンアップしています。現時点では、半導体の進化するスピードについて行ける装置を製造できる企業は同社以外にないと考えられてします。
仮に同等の装置を安価に製造するメーカーが出現したとしても、大手半導体メーカーが価格の安さを理由にすぐ他社製品に乗り換える可能性は、ほぼゼロと言ってもいいでしょう。なぜなら、これからさらなる高性能化で微細化と正確性の求められる半導体のテストを、信頼もないメーカーの製品に任せるというのは考えにくいからです。こうした事情をふまえると、これからもレーザーテックによる半導体用マスク装置におけるシェアの独占は続くと見るのが妥当と考えられます。
意外と歴史が長い?
これだけの技術を持つ最先端のテクノロジー会社のイメージですが、創業は古く内山康が1960年(昭和35年)に創業した有限会社東京 ITV 研究所がもとになっています。その後、1962年に設立された日本自動制御株式会社が、1986年レーザー テック株式会社に名称変更し、今日に至っています。
直近の主要な動向
決算内容と値動き
レーザーテックの業績は、良いと言えます。20年6月期の業績を見ていきましょう。売上高は前期比48.0%増の425億7200万円と、半導体市場の回復と同調するように大きく伸びています。しかし特筆すべきは営業利益です。営業利益は、なんと前期比89.7%増の150億6200万円でした。このような好決算は、常に株価に織り込まれる傾向にあります。それでも、さらに上振れを期待する心理が投資家達の買いを誘い、決算前などには特に顕著に株価に現れます。また、配当性向は35%を目標とすることが同社ホームページの配当政策に盛り込まれていることからも、同社は投資家を意識した経営をしていると言えるでしょう。
今後の展望
中長期的な見立てでは、リモートワーク・テレワーク、家庭内でのインターネット使用などにより、パソコンやタブレット、スマートフォン、それら周辺機器における需要は大きく拡大すると見込まれます。それにより、半導体の製造が増える事は明らかです。また、ネット接続によるトラフィック増大は、データセンターの増設需要拡大にも繋がるので、それらをふまえると半導体市場はさらに拡大していくことが予想されます。それが同社の業績を今後も押し上げていくことは自明の理と言えるでしょう。
TSMCの新工場建設報道
1月7日付の日刊工業新聞によると、台湾の半導体製造企業のTSMCが2021年内に、日本に開発拠点を新設する計画があるそうです。このことから、同社が扱う半導体マスク欠陥検査装置などの、同社主力製品の需要が高まり、業績的にも投資家心理的にも追い風になりそうです。TSMC、米インテル、韓国の三星の3企業でレーザーテック社全売上高の約70%を占めていることからも、この報道が与える影響は大きく、半導体市場においても、長期的なインパクトとなることが分かります。
今後の株価推移予想・投資判断
空前の株高やテーマ性が追い風となって、高PERにも関わらず上場来年高値を更新し続けるレーザーテックの株価ですが、筆者の投資判断は「押し目が来たら買え、上り続けるようなら手を出すな」です。理由は先も述べた通り、レーザーテックには他の追随を許さない確かな技術力とシェアがあり、そのニーズはこれからも確実に伸びるでしょう。
しかし、その成長もある程度織り込まれており、日経平均の落ち着きとともに熱は冷めていくと予想されます。さらにテクニカル面でも、天井のサインが見受けられます。トレンドは上昇を継続していますが、1月14日の15690円の高値を目指しながら、跳ね返されるようなチャートを形成し、25日から29日の取引終了まで5日続落するという値動きです。先述の通り、トレンドは継続していることからも、押し目からの短期的なリバウンドは期待できますが、いずれ株価は10,000円の大台を行きつ戻りつしながら熱を冷まし、9000円台に落ち着くだろうと考えられます。
ところがまだ上値にチャレンジする姿勢を崩そうとしないこともから、市場からは今後20,000円台を目指すのでは、という声が聞かれるのも事実です。しかし今から買いで最大でも約5000円の値幅に挑むよりは、下で待ってから買う方が圧倒的にリスクは低いです。気長に待ちましょう。
投資する上で想定される当社の事業リスク
順風満帆に見えるレーザーテックですが、その業態ならではのリスクもゼロではありません。今後の株価に影響する可能性のある、注意すべきリスクはこの2つです。
半導体市場の変動
レーザーテックの主要販売先はほとんどが半導体関連企業ですので、半導体市場に何かしらの変化や問題が生じた場合、その余波が及ぼす業績や株価への影響は少なくありません。半導体市場は、今後さらなる技術革新を経て、大きな成長が期待されている市場です。しかし、短期的な需要と供給のバランスが崩れることなどが原因で、市場規模が大きく縮小する可能性があることも視野に入れなければいけません。
こうした需要縮小により、顧客が予定していた設備投資が先送りになる、或いは凍結となった場合は、同社の業績にある程度の打撃があるというのは明白です。逆に、想定を超える急激な需要増加によって設備投資を加速した場合は、製品の供給が間に合わないことによるチャンスロスが発生することもあるので、同社は常に半導体市場の荒波にさらされていると言えるでしょう。
為替変動
レーザーテックは国内で製品を開発・製造し、世界各国の顧客に向けて輸出しています。外貨による取引も多いので、急激な円高などの為替変動が生じた場合、同社の業績には大きな打撃となる見込みが強いです。特に製品の単価が数十億にもなると、その影響はかなり大きいものになると予想されます。
まとめ
いかがでしたか?レーザーテックのように世界と真っ向勝負できる技術や製品を持つ企業は多くありません。そのため人気も高く、同時に加熱もしやすい傾向にあります。今はまさに鉄でいう一番熱い時期だと言えます。
高い配当性向は確かに魅力的ですが、こういう時期は時価総額も大きく動く傾向にあります。鉄を打って火傷するのは短期投資家に任せて、落ち着いた頃に底値で拾い、長期的な視点で買いを入れるようにしましょう。