この記事では、高配当株である日産自動車について分析しています。
日産はカルロス・ゴーン氏の問題、ルノーとのゴタゴタ、業績不振に喘いでおり株価が下落基調にあります。
7月25日に発表された中間決算は、営業利益が前年対比▲99%という衝撃的な内容でした。北米の販売低迷で売上減少、新車や新技術への投資でコスト増加が続いています。
余剰の生産能力を削減することで1.25万名のリストラを実行するということですが、20年前にゴーン氏が断行した「リバイバルプラン」での復活を再現できるかどうか。
低調な決算発表を受けて、日産の株価はかなり割安感が出ており、配当利回りが7.69%とかなり高い水準になっています。株価下落リスクとのトレードオフをどう見るかで投資判断が変わります。
株価はどこまで下がるのでしょうか。日産について分析してみます。

かつて銀行員として培ったデューデリジェンスのスキルを活用して分析を実施しています。ぜひご参照ください!
※投資は自己責任でお願いします
高配当株の銘柄分析:日産自動車の株価推移

まずは直近の日産自動車の株価動向を見てみます。カルロス・ゴーン氏の不祥事や株主であるルノーとのゴタゴタ、業績不振により下落傾向にあります。
2019年7月26日時点で1株あたり741円で2006年のピーク時からおよそ3分の1ほどの水準です。
高配当株の銘柄分析:日産自動車の事業概要
言わずもがな、自動車製造・販売とグループで自動車関連事業を展開しています。事業規模は全世界に及びます。
フランスのルノーグループ傘下として世界有数の自動車コングロマリットであり、事業について詳述は不要でしょう。
世界販売はおよそ600万台ですが、全体として事業は不振に陥っています。新興国通貨安や原材料高が影響し、営業益はやや減額しています。また以前は好調だった北米事業が停滞しています。
ただ2020年3月期は北米の採算が徐々に上向く想定で、売上高11.3兆円、営業利益2,300億円を見込んでいます。
日産の株価はどこまで下がるか?
日産の株価を押し下げている要因は大きく3つです。
①カルロス・ゴーン氏の不祥事の影響
かの有名なカルロス・ゴーン氏の不祥事が話題になりました。もし報道が真実だとすれば、会社の私物化による背徳行為であり、決して許せることではありません。
事業の屋台骨が大きく揺らぐことはない、とは思いますがブランドイメージへの悪影響はありそうです。ただ日産は既に世界中でブランドを確立しており、大きいインパクトを与える可能性は低いでしょう。
排ガス規制に関してあれほど大きな不祥事を起こしたフォルクスワーゲンですら、販売台数にほとんど影響はなく、あのトヨタを上回り世界第1位をキープしています。
それに対して日産は、販売や生産そのものに問題があったわけではありません。
むしろ、こうした事業に大きな影響がない不祥事で株価が下がった時に仕込むのは、儲ける定石であり、プライベートエクイティがよく利用する手法です(プライベートエクイティはもっと事業立て直しを前提として投資しますが)

一方で、問題が解決する、または落ち着かない限りは株価の重しとなることは間違いなさそうです
【外部リンク】朝日新聞:カルロス・ゴーン氏に関する記事
北米事業や新車開発を要因とした業績不振
7月25日に発表した第1四半期の決算は営業利益が前年同期比で▲99%の16億円でした。主力の米国での販売低迷や次世代技術の開発費がかさんだ結果です。
日産は、北米の採算を改善するために値引き販売の抑制などに力を入れてきましたが販売が不振に陥っています。
また自動運転やコネクテッドカーといった次世代技術の開発に対する投資費用が大きく膨らみ、営業利益が大幅に下落してしまった格好です。
この決算発表を受け株価は下落の歩調を強めています。
【外部リンク】日経新聞:日産が大幅減益、カリスマ無き復活の険しき道
ルノーとの経営統合交渉が難航
ルノーの経営統合提案に対して、日産は拒否しており交渉さえ避けています。このことを株式市場・投資家はネガティブに見ているようです。
今のところ日産が走ってきた道のりは見るに堪えない。日産は仏ルノー株15%を保有し、ルノー側は日産株43%を持つ資本関係を築いているが、日産が前会長カルロス・ゴーン被告の取締役を解任して以降、西川氏はルノーとの統合を棚上げしてしまった。複数の報道によると、同氏はルノーのスナール新会長の統合提案をはねつけ、交渉することさえ拒んでいる。
出典:ロイター記事
これは間違っている。第1の理由としては、日産は収益力が弱いので、ルノーとの関係強化が妥当なことが挙げられる。リフィニティブがまとめた予想平均に基づくと、日産は来年度に売上高の3.9%しか営業利益に転じることができない見通し。世界的な自動車メーカーの利益率は平均6.6%だ。
第2に、資本を共有すれば、電気自動車や自動運転車に対してより適切な投資が可能となる。例えば日産が持つルノー株は、時価総額のほぼ1割に相当するとはいえ、影響力を有せずに恐らく売却もされないので、投資家はその価値を全面的に認めていない。
ルノーは日産との経営統合を推し進めようとしていますが、日産はルノーやルノーに影響を持つフランス政府からの独立性を維持したい考えです。
最新の決算に見られるように日産の収益力には懸念があり、また開発費用も必要になっていることから、統合したほうが経営効率が高まるとの見方が強まっています。
しかしその中で、日産サイドが統合の交渉すら拒否しているという事実はネガティブな印象を与えています。
日産の株価が上昇に向けた糸口
日産の株価が上向くためには、どんな要件が必要なのでしょうか。割安株としての魅力は当然ながら値が下がるほどに増しており、構造改革の成否が鍵を握ります。
株価上昇の要因①:高配当株としての魅力
株価が下落するなかで配当利回りは上昇を続けており7.67%と非常に高い水準まで来ています。
日本国内の上場企業の配当利回り平均がおよそ2%ですから、非常に高い水準にあるといえます。株価が反転する要素の1つにはなりそうです。
株価上昇の要因②:株価は割安感が出ており、財務は健全な水準
PER4.99倍、PBRは0.69倍で大型株としても非常に割安感が出ています。
業績不振とはいえ自己資本比率は28.8%、流動比率は170.96%と健全な水準で差し迫った懸念は無さそうです。
株価上昇の要因③:構造改革の行く末
配当利回りや割安感からいかに株銘柄としての魅力が高まっているといっても、肝心の業績が不振続きでは株価の上昇は見込みにくいでしょう。
1にも2にも、日産が実行を計画している構造改革が成功するかどうか、が株価上昇の鍵になります。
先述の決算結果を受け、中期経営期間中の2022年度までに、生産能力の削減に向けて1.25万人をリストラするという構造改革を発表しました。
カルロス・ゴーン氏が20年前に断行した「リバイバルプラン」以来の大改革です。この構造改革による収益力の回復実現が今後の株価反転の鍵となるでしょう。
構造改革の肝はリストラだけではありません。日産の業績不振の要因には新型車の投入が減少していることも挙げられます。モデルチェンジが競合他社と比べて遅いとの評判です。
中期的には、20以上の新型車を投入する計画です。日産の強みである電気自動車の技術を強みとして自動運転の支援機能を搭載した新型車を増やす計画です。

こうしたコスト削減・売上向上の双方につながる改革とその成果創出が、株価反転のための最も重要な要因となります
株価上昇の要因④:ルノーとの経営統合が進展
日産のスタンスを見る限り望み薄ですが、もしルノーとの経営統合交渉が進めば、株価が大きく反転する可能性があります。
現在の情報から考え得るシナリオとしては先述の構造改革が失敗して、経営が立ちいかなくなった場合に日産がルノーに助けを求める(またはルノーが日産に救いの手を差し伸べる)というケースが考えられます。

その時、恐らく日産の株価は更に落ち込んでいることでしょう
まとめ:日産自動車は高配当株・割安株としては魅力的だが今は仕込み時ではなさそう
日産は業績不振に陥っていますが、高配当株としてかなりの利回り水準に達しており割安感も高まっています。
しかしカルロス・ゴーン氏の不祥事、ルノーとの経営統合拒否、業績の不振などによって株価が低迷しています。株価が反転するためにはリストラおよび新車開発による構造改革が鍵となりそうです。
従って、構造改革の成果がでるまで当面は株価の下落が続くでしょう。今は仕込み時ではないと思います。構造改革の成功と業績回復に明るい兆しが見えてからでも遅くはないでしょう。
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